この本が生まれた、きっかけとは
この本の作者である伊勢英子さんは、フランス旅行中に偶然、ヘンテコな部屋を発見しました。通りの窓越しに室内をみると、古い羊皮紙の本が並び乱雑な室内、そして見慣れない工具があるとてもフシギな部屋だった。
「ここは、一体なんだろう??」
とても気持ちを引かれ、しばし立ち去ることを躊躇した。そこで、彼女がとった行動がなんとも素敵なのです。自分が描いた絵本を、郵便受けに投函したといいます。その本に「アナタにお逢いしたいです」と書いた手紙を添えて。
宿屋にて何日も返事を待つ伊勢さん。
そして諦めかけた滞在最終日にようやく返事が届いた。
「一時間なら、お会いしましょう」と。返答にしばらく時間がかかったのは、この部屋の主のおじさんが病気になり、入院していたからでした。
おじさんのルリユール工房で見つけた興味深いモノ
急いで面会にむかい、くわしく話を聞いた。実はこの不思議な部屋は、古い本を修復する「ルリユール工房※」だったのです。そして部屋の写真を撮りたいというと、それはダメだとおじさんはいいました。それならばと伊勢さんは、夢中で工房内や街並みなど、スケッチしまくったといいます。
そのあと、何度もおじさん(齢八十歳らしい)の工房を訪ねることになる。ついに伊勢さんは、パリにアパートメントまで借り滞在し続けた、といったイレコミぶり。やはりそれだけの魅力が、「おじさんの工房」にあふれていたのですね。
(※ relieur、ルリユールは、フランス語で「工芸製本」と呼ばれ、職人の手作業による装丁や製本その技術のことを指します。手作業で一冊の書物に仕上げるルリユールは、ヨーロッパで数百年も続く伝統的な技術です)
そして、絵本『ルリユールおじさん』に結実した
素晴らしい絵本が完成しました。2011年初版、いまもたくさんの人に読み継がれているのは、絵本好きにはたまらない「空間や時間」が共有できるからでしょう。工房内の描写には、おじさんが仕事に使う機械などマニアックな絵も多く、それらを水彩の淡いタッチで、独特な工房の空気感を表現しています。あなたが「絵本好き、植物が好きで、あとは…ちょっぴりフランス好き」ならば、ドンピシャ!にハートに届きます。さらに「子供の心を持つ大人のための絵本」でもあります。
「本と、おじさんと、おんなのこ」のお伽話です
○カンタンあらすじ
パリのまちに朝が来た。ソフィーが大切にしていた「植物の図鑑」が、バラバラになってしまい困ってしまいました。そこであるヒトに教えてもらったのが「ルリユールおじさん」でした。路地裏の静かな通りにひっそりとルリユールおじさんの店はありました。「ルリユール」とはもちろん“手作りの製本”のことです。ソフィーが歩き回って、やっと探し当てたお店でした…「はいっても、いいの?」
👇続きが知りたい方は、スーちゃんの朗読版をどうぞ。
○伊勢 英子(いせ ひでこ)1949年5月13日~北海道生まれ、絵本作家。父は画家、夫はノンフィクション作家柳田 邦男。「いせひでこ」名で活躍している。東京藝術大学 美術学部卒、フランスにて一年間イラストレーション技法を学ぶ。38歳のとき、眼疾患で右目の視力を失くす。「グレイがまっているから」で産経児童出版文化賞「水仙月の四日」で産経児童出版文化賞美術賞。「ルリユールおじさん」で講談社出版文化賞絵本賞。
▷リンク/『ルリユールおじさん』朗読は田中好子 懐かしのスーちゃん!
▷リンク/参考、フランスでの評価⇒ Sophie et le relieur - Hideko Ise - Babelio
(1700文字、I think you should read this book.) 【今週のお題】秋の空気