とある運転士の話
いいですか…?いゃあね、これからお話しするのは、実際にとある運転士さんから聴いた、いやぁな経験談なんですがねぇ。
これがね…ゾッとするお話なんですよ。
えぇ…これはですねぇ、まぁ、仮にお名前Mさんとしておきましょうか。その方から聞いた話なんですけどねぇ、そう、かれこれ10年以上は前のことらしいんです。
そのMさんですがねぇ、生粋の鉄ちゃんでして、物心ついた頃から、電車が好きで好きでたまらないッ。幼児の頃から電車のおもちゃに夢中でねッ、学生時代には撮り鉄って言うんですか、走る列車を写真に収める。そんでもって大手鉄道会社にスルッと、就職しちゃたんですよ。
これは凄いことですよッ─!
もう好きが、そのまんま仕事になっちゃったぁ~てねッ?羨ましい話。だけどねぇ、Mさん。ポツリと、こうも言ったんです…
「アレがなければなぁ…定年まで乗ってたんですけど」ってねぇ、そういうんですよぉ──アレ?!
えぇ、えぇ、最初は私も聞き返しましたよ…でもねぇ、話を聴いていくうちにねぇ、だんだんゾォとしてきたんですよぉ、運転士ってやっぱり避けられないのが「人身事故」なんですよねぇ。なんでも内輪では「マグロ」なんて呼ぶそうで…なんか嫌ですね。
それでね、最初のアレはねっ、運転士になって2年目のことだったって、そう言うんですよ・・

その日はねぇ、都市部の朝。通勤ラッシュ帯の快速、空はどんより曇っていてね。通常どおり慎重に運転していたんですって。
それで、駅に入線するちょっと手前で。ホームの白線を一歩越えて、こっちをジィ〜っと見てる、中年男性がいたって言うんですよぉ。それでねぇMさん「アレは危ないなぁ…」って思っていたら、その人すぅ〜と、白線の内側に戻ったんですって。
「あぁ、よかったぁ…」って安堵したその瞬間──
バンッ──!!と来たッ!
その人が電車に飛び込んで来たッ!!
運転席のガラスがビシィッ─!!ってヒビ割れて「うわぁぁぁやっちゃったよぉぉ」って・・
一瞬の出来事。その後はもう、緊急停車して、無線で司令に報告して。でもねぇ…ずぅっと頭から離れない。その男性の顔が異形だったって…そいつと目が合っちゃったって…
それからも、Mさん、何回かアレに遭ったんですよぉ、最初の頃はねぇ、やっぱり「人を殺してしまった」という罪悪感があって。
でも、回数を重ねるごとに、だんだん「またかよぉ…チッ」って、思うようになっていったらしいんですよねぇ…
でもねぇ、50歳を過ぎた頃、Mさんはいままでにない「おかしな人身事故」に遭ったって言うんですよ・・
その日はねぇ、夜の10時前かな。静かなホームに男性がひとりポツンと、携帯を見ながら立ってたんですって。
電車がホームに入線したその時…その男性が…誰かに後ろからグイッと押されるように、ふわっと線路に落ちたんですよ。Mさんコレにはゾッとしたそうで。
「いまの誰か押したんじゃねぇのか─?」って。
でもねぇ…誰もいない。周りにねぇ、本当に誰もいないんですよぉ。
実はそれだけじゃ終わらないんです…この話。
その2週間後。また同じ駅で。今度は23時近くのこと。本日最後の乗務だったМさん。フッと気が緩み、前回の事故が頭に浮かんだんでしょうねぇ…
「今日は大丈夫だろうなぁ…」って。そしたら、今度は若い女性が─誰かに引っ張られるように線路に落ちていったんですって。
腰を落として「嫌だ嫌だッ!」と本人必死に踏ん張ってたのに…ズルズルと誰かの手に引かれるように…もちろん周囲にはやっぱり誰もいない…信じられないですよねぇ、そんなことねぇ…
さらに、それだけぢゃない!
ホームの防犯カメラに…その情景が、ちゃんと映ってたんですって。女性が、何もない空間に引っ張られて落ちるとこが…あれはいったい…何だったんでしょうねぇ。
Mさんそれ以来…電車にすら乗れなくなっちゃったって、言うんですよぉ…あぁ、なんか背筋がゾクッ!とします。
これね、えぇ、えぇ…この話はねぇ…まだあるんですよ。今日はここまでにしておきましょうか。
(Thank you for reading this. I hope to meet you again.)