小説
翔太と師匠 師匠の言葉が冬の冷気に凛と響いた。辺りはチラホラ雪に覆われ静寂があたりを包んでいたが、翔太の心は凍えるどころか、冷徹な野心で燃え上がっていた。廃材を燃やす炎越しで座る師匠の姿は、もはや老いさらばえた一人の建築屋にしか見えない。 「翔太、…
逗子誰そ彼─海鳴りの淵 鎌倉逗子─その名の底に宵闇が沈んでゐた。横須賀線は東京の喧騒をあつさりと断ち切る。鎌倉文士たちが歩ゐた町。小林秀雄の孤独芥川龍之介の苦悩中原中也の病。その吐息がいまも潮風にまじる。されど、私の物語は鎌倉の静謐には終はらなかっ…
奇天烈なる山嶺と宇宙式便所紙試案 そうなのだ、アヤノは泣きながらこうも言ったのだ「あなたはシン タカシ、なのでしょ?」それは安堵なのか、錯誤なのか─愛は欺瞞によって維持される。晩秋の夜。タカシは単独で山行していた。稜線の避難小屋、灯油ランプがかすかに…
検索タイトル:妙な話 晩秋に単独行の山歩き あれは、晩秋に単独行で山歩きしていた頃の話だ。その山は登山道も程よく整備され人気はあるのだが、日没ともなれば人影はまったく途絶える。せいぜいヘッ電照らし稜線を彷徨く、変わり者縦走者がひとりふたりあるか─…
たかしが彩乃と初登山した話 暑い夏だった。たかしは仕事終わりの缶ビールを、ルーチンようにゴクゴクと流し込み、ゲフゥと気の抜ける喉を鳴らした。「ふぅ~これのために働いてるんだよなぁ、俺…」カウチソファにだらしなく沈み込みながら、そうつぶやいた。その向か…
たかしが大学登山部 不思議体験した顛末 「SAVE OUR SOULS」 ※これは以前紹介した「谷川岳からの救難無線の怪」のリライト版です。 https://minminzemi81.hatenablog.com/entry/2024/09/23/031516 ᨒ𖡼.𖤣𖥧๑… ᨒ𖡼.𖤣𖥧๑… ᨒ𖡼.𖤣𖥧๑ ⛰️ 谷川岳は群馬県と新潟県…
結崎彩乃が谷川岳に ソロ登山挑んだ話⛰️ 夏休みが終わり少し肌寒さを感じ始めた頃。彩乃は谷川岳に単独登頂することにしました。1泊2日のソロ登山で、久々の挑戦となります。 早朝、登山口に着いた時から奇妙な違和感あり、普段とは違う嫌な空気が漂っていました…
浦宗研究所の廊下は、いつもより冷たく暗かった。無機質な足音が木霊する。教授はあえて鞠耶の部屋を訪れず、自分の研究室で考えを巡らせていた。 「教授。メッセージ解明しましたわッ!犯人はヤ…いえ。再び戦争を目論む奴らですッ!」教授は、鞠耶のそのキッパリ宣言…
浦宗教授幻視考第二弾! 喪われたアーク発見!? ~ 怒濤の死国88編 ~ 鞠耶の目にわずかに光が宿る。彼女は机越しにそっと手を差し、浦宗の無骨な手に重ねあわせた。「教授…こんなわたくしでも、お傍に居てよろしいのでしょうか?もし、すべて終わりましたら──…
夏休みの思ひ出 一年一組 田村未完 カフカフ 蒼い穹には太陽が変わらず輝いている。先ほど私の頭上を横切ったシーサーの影が、今度はいくつも重なるように空を漂いだした。それは幻視なのか、それとも八重山の土地が持つ、隠されたアビリティなのか。足元には私が…
夏休みの思ひ出 一年一組 田村未完 カフカフ ジリジリ焼け付くような日差しが、コンクリートを白く焦がし、立ち昇る陽炎が風景を歪ませていた。 蟟のけたたましい鳴き声が、脳みその芯を直撃し掻きむしる。私はそんな喧騒から逃れるために、人気のない砂浜へ訪れた…
夏休みの思ひ出 一年一組 田村未完 カフカフ 茨野道の先に拡がるのは、どこまでも打ち続く青い海原。波がザッザーッと音を立てながら砂浜に打ち寄せ、潮の香りが鼻腔をくすぐる。大空は晴れ渡り太陽がキラキラと水面を乱射しているというのに、これは何故だろう、…
とある運転士の話 いいですか…?いゃあね、これからお話しするのは、実際にとある運転士さんから聴いた、経験談なんですがねぇ。これが…ゾッとするお話なんですよ。 えぇ…これはですねぇ、まぁ、仮にMさんとしておきましょうか、その方から聞いた話なんですけどねぇ…
たかしと彩乃のストーリー 前編 たかし突然の引越し 和歌山の田園地帯がドドォーンと拡がる。小さな農村のその夕暮れたあぜ道。たかしの何気ない一言から始まった。 「ワイ、東京へな、行くことになったんやけど…」 彩乃はその言葉に驚いて足を止める。彩乃は動揺し、…
浦宗教授は、かつてW大学考古学教室に籍を置き、古墳解体および副葬品の独自分析で知られた、賢人である。発掘された品々の一部を「古代精薬」あるいは「呪符処方」に仕立て、好事家パトロンへ高価売却していた。この行為が問題視され、大学を追われた。 浦宗教授幻視考…
☆登場人物☆ ▷ボーマン大吾(だいご) 宇宙ステーション勤務の冴えない中年男。理系で真面目で、でもどこか抜けてる。 ▷お春(OHARU9000) 自宅AIハウスキーパー。冷静沈着で超高性能型。最近ちょっと冷たい倦怠期? ▷語り手 たまに状況補足する。 ᨒ𖡼.𖤣𖥧๑……
第一夜 高野の鐘の音は・・ 女人堂とは、高野山女人禁制により女性が山内に入ることができなかった時代につくられた籠もり堂のことです。各女人堂をめぐる結界に沿ってつくられた参詣道が女人道。昔は高野山の街道の七つの入口にそれぞれ女人堂あり、女性たちは離…
最終章 人跡未踏な 奥様は18歳JK 春眠不覺曉。夜来より雨上がり、山々に鶯が鳴き、春の煌めく朝日が刺す。風に揺らめくカーテンの隙間から差し込む柔らかな光が、ふたりが住む部屋をゆっくりと照らしていく。といってもそこは、玲奈お姉さんが遺していった改造…
禁断の結婚式クイズ 開宴! ボーナスステージの松明にポンポン火が灯る。地鳴りするような太鼓が、ドドドッ鳴り響いた。どこからか流れてくる雅楽。鬱蒼とした森の奥、巨大な赤い鳥居とその前に鎮座する二つの夫婦石。 手作り感溢れるネオン看板が架かる「最終儀式 …
肆章 結界儀式☆クイズ煉獄 テン「バカップルさ~ん、ハァイ、いらっしゃいィ~!あ、この世は煉獄、天国地獄なんてありゃしませんて、ねっ?ようこそだっぺぇえぇ~!!」 自分でパチパチ拍手しながら、妙チキリンな奴が登場してきた。二人その変声には何故か抗えない…
参章 深淵を覗く時 深淵もまた… たかしは暗黒空間に深く沈み続けながら、来し方を想い出していた。今迄に喪っていた“マダラ記憶”が、クリアに蘇ってくる… ~たかしモノクロの回想~ あれは確か、夏休みの最終日。あれほど煩かったセミの声も、めっきり少なくなった…
弐章 図書館の夜は 絶望の暗闇の果て 優斗に絡まった白糸を解くのにずいぶん苦労はしたが、彩乃と二人で協力して日没までに、何とか解くことが出来た。ヤツはずいぶん疑ってきたけど「これは手品でも何でもなく何らかの怪異現象だ」と説得したのだが。すると「そん…
壱章 まさに蜘蛛の糸を掴む話 平成✕✕年。県立矢利寿木高校の新学期が始まった。春は出逢いと別れの季節という。校庭の桜は既に葉桜となり、たかしは高校二年生になった。 新担任の紋切り挨拶を聴き流し、座るべき席を適当にくじ引で決め、誰もやりたがらない学…