
夏休みの思ひ出
一年一組
田村未完 カフカフ
茨野道の先に拡がるのは、どこまでも打ち続く青い海原。波がザッザーッと音を立てながら砂浜に打ち寄せ、潮の香りが鼻腔をくすぐる。大空は晴れ渡り太陽がキラキラと水面を乱射しているというのに、これは何故だろう、そのすべてが、まるで分厚いガラス越しに見ているかのように、どこか現実感に乏しい。
砂浜には誰かの置き土産なのか、それとも、最初からそこに存在していたのか判然としない、真新しい運動靴が片方、ポツンと転がっている。拾い上げようと手を伸ばすと、その刹那、波がザッと引き、靴はまるで意思を持つ生き物のように砂中に吸い込まれた。足痕一つ残遺さず消え去る光景に胸の奥が騒めく。
空見上げれば雲一つないはずなのに、ふと視界の端で、巨大な魚の影がゆっくりと横切った気がする。目を凝らすとそこには何もいない。ただどこからともなく、微かなマーヤーの鳴き声が風に乗って聞こえてきた。それはすぐそばにいるようでもあり、あるいは、遥か遠い異世界から呼ばう声なのか。
この海辺は記憶の中にある風景と寸分違わないのに、同時に、一度も訪れたことのない場所みたいな奇妙な感覚を呼び起こす。まるで、自分自身が何かの物語の中に迷い込んだかのような、夢と現実の端境が曖昧になるような灼夏の気配、そう確かにそこには漂っているのだ。
そんな静謐な砂浜に突如として現れたのは、白いワンピースを着た、裸足の女の子だった。彼女はまるで海の中から現れたかのように、波打ち際にたたずんでいた。そのワンピースはふわりと揺れ、彼女の細い身体を優しく包んでいる。長い黒髪が潮風に吹かれ、時折、日焼けした幼い顔にかかる。彼女の瞳は大きくそして深く、まるで底の見えない泥沼のよう。海の色を映しているようでもあり、あるいはもっと深く、世界の深淵そのものを映し出しているようにも見えた。しかし何故だろう。その表情はどこか抜け落ちていて、まるで魂がここにないかのようでもある。
彼女は打ち寄せる波をじっと見つめている。その小さな足は何度も海水に洗われ、砂に埋もれ、彼女の周りだけ時間の流れがゆったり流れる。なぜこんな場所に一人でいるのだろうか。どこから来て、どこへ行くのだろうか。彼女の存在はこの海辺の奇妙な静けさを、さらに深く、そして不可解なものにした。まるでこの世界から、ほんの少しだけ外れてしまった、そんな存在が確かにそこに佇んでいた。その小さな白い影は、この海辺の物語が、まだ何かを語りかけていることを、静かに示唆しているのか。

その少女の周りを漂う異様なまでの静寂は、夏の熱気を帯びた大気を吸い込み、砂浜に押し寄せる波音さえも遠ざけているかのよう。私は彼女のただならぬ存在感に引き寄せられるように、一歩、また一歩と、その白い影に近づいてゆく。砂が足の裏で奇妙な摩擦音を立てる。ザァ、ザリッ、とそれはまるで私の内側で、何かが削られてゆくような感覚を覚えた。
少女は私が近づいても、その視線を波打ち際から動かさない。顔にかかった黒髪の隙間から覗く横顔は、やはり何の感情も読み取れず、ただただ白いワンピースと同じ色の、無垢な虚無さがそこにあった。まるで、彼女自身がこの砂浜に流れ着いた、意思を持たない漂流物であるかのように。
声を出そうとした瞬間、私の喉がヒリつき乾いていることに気づいた。声はカサカサに掠れ、微かな風にも掻き消されそうになる。それでも私は、言葉を紡ごうと藻掻く。その時、少女がゆっくりとほんの僅かに顔をむけた。それは私の方を見たわけではない。視線は依然として海の彼方、あるいは足元の砂を見つめ続けている。しかし、その動きだけで、私の心臓は不気味なほど速く脈打ち始めた。彼女の唇がゆっくりと開いた。
「もう終わったかしら…?」
蚊の羽音よりもか細い声だった。しかしその声は、この奇妙な空間の静寂を切り裂き、私の鼓膜の奥深くに直接響き渡る。まるで呪文のように、あるいは、遥か昔からそこに存在する響きのように。
「な…ん…と?」
私がそう問い返した時に、少女の姿は陽炎のように揺らぎ始めていた。白いワンピースの裾が波打ち際にかすかに残る泡沫のやうに、ふわりと薄れていく。足元からそして身体全霊がまるで海に溶け込み、あるいは陽光へ吸い込まれたか、徐々にその輪郭を喪っていく。私は慌てて手を伸ばした。掴もうとした指先は何も捉えることはできなかった。
ただかすかに残る潮香と、そして、相変わらず聞こえるマーヤーの声だけがその場に残響していた。消え去ったはずの少女が立って居た場所に、たった一つ、貝殻が残されていた。手のひらに乗るほどの水字貝。それを拾い上げるとほんのり温かかった。そして貝表面に、まるで最初から刻まれていたかのように、微細な文字が浮かび上がっているのに気がついた。
kahukahu…カフカフって…いったい、何だ──?
夏の日差しは依然として凶暴で、青い海はどこまでも拡がっている。白い波がザッザーッと音を立て、砂浜に打ち寄せ、潮の香りが鼻腔をくすぐる。何も変わらない。いや違う、全てが変わってしまった。
私は掌の水字貝を握りしめ、終わらない夏休みのその深淵を、何時までも何時までも覗き続けていた──つづく。
▷二作目 続きhttps://minminzemi81.hatenablog.com/entry/2025/07/14/123744
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余録/例えば…夏休みの作文。
「夏休みの思ひ出」
田村未完
「うちの夏休みの一番の思い出は、家族旅行で訪れた沖縄でち。青い空、どこまでも続く白い砂浜、そして透き通るようなエメラルドグリーンの海!アオハル!まるで絵に描いたような景色に、私たちは感動ちました。特に、シュノーケリング体験では、色とりどりの熱帯魚たちが目の前を泳ぎ回り、まるで竜宮城にいるようでしたぁ!海から上がると、潮風が心地よく、砂浜に寝転んで、どこまでも続く空を眺めていると、時間が経つのを忘れてしまいまちた。沖縄の自然の美しさに触れ心が洗われるようでちた。今回の旅行で、家族の温かさ、絆、そして自然の素晴らしさを改めて感じることができまちた!また、三回ぐらいは沖縄に行きたいでつ」
こんな感じか…?
ふぅむ…🤔そこでワイは提示した。最後の〆「あと三回ぐらいは…」に何かドラマを予感させるではないかッ‼️何故三回なのか─?たかが沖縄旅行如きで「家族の温かさ、絆」とまで言うお子ちゃまの心情に家庭崩壊の臭いを感じる。つまり夫婦仲がとても悪いのだ。会話すら子供を介してするぐらいに。なのであと三回のリミットを設けた。ひと夏でいち沖縄と計算すると、三年後に「離婚or家庭崩壊、即母子家庭爆誕!」の予感を、これは既に匂わせている…夏休みの宿題作文と家庭環境に頭を悩ます学生、田村未完がいた。もしも彼女が、おとろしく筆の立つ厨坊だったら、これ一体どうなるのか─?かうして、カフカフ世界に突入するッ!文学というものは常に「危険な毒」を孕んでいる。綺麗な風景描写の奥底に、深い哀しみを仕込んでおる。正にうんこ味のカレーorカレー味のうんこなのである。まる!…𝓉ℴ 𝒷ℯ 𝒸ℴ𝓃𝓉𝒾𝓃𝓊ℯ𝒹
(Thank you for reading, are you finished yet?)
#ライトノベル#Gemini