フルーツの王様、メロン様。もう語感からして「中世メロンが王朝」を彷彿とさせるではないか!え?メロンが王族だったの「控えおろう、メロン様であらせられるぞ、ズがたか~い!」思わず家族全員が「ははぁ~」となるのだ。それぐらいのご身分だった。
当時「メロン」はとんでもインパクトスィーツだった
昭和時代(四十年代頃)「メロン🍈✨」はやたら高価で、ダントツの超高級フルーツだった。だから日常生活に登場することは、ほとんどなかったね。庶民はバナナだよ!そんなバナナ🍌✨遠足時、お約束の質問「先生、バナナはおやつに入りますか」つーぐらいスタンダードな感じだった。
普段オヤツに登場したのは、せいぜい「マクワウリ」とか「スイカ」ぐらい。「メロン食べたかったら入院でもしろ!」と、ホントに親にいわれたぐらいだ。お見舞いの定番品だったから「そんな無茶なぁ~泣💧」ですよ。あと、法事の「仏前のお供え」としてかな。線香のかおり付き案件として…笑
それから当たり前のハナシですが。映画『男はつらいよ(山田洋次 脚本)』はあくまでも“創作物”ですからね。主人公を喧喧囂囂(けんけんごうごう)非難するのはまったく筋違いと思います。もう最近“変なヒト”多すぎ。w
第十五作『男はつらいよ 寅次郎相合傘』メロン騒動記
この話で“爆笑できるかどうか”で、リテラシー能力あるナシまで解ってしまうのカモ?果たしてあなたは「人間の心のヒダヒダ」を読み切れるでしょうか?笑いのポイントは・・あり杉だ。
まず話の前提として、寅さんが旅先で世話をした人物※がいて、そのお礼に高価な「メロン🍈✨」をもらった経緯がある。なので基本「所有権は寅さん」にある。保管場所はとらやの冷蔵庫。その管理責任者は、オバちゃん。
さて「とらや一家&リリー」が、茶の間で遊んでいます。この時、なぜか寅さんは外出中でした。それで、冷蔵庫からオバちゃんがメロンを取り出し、わざわざ指折り人数までしっかり確認した。答え「六人だね!」と断言する。
そして喧嘩にならないように、慎重に「六等割に切り分け」ねばならない。これはとても難しい作業で、どうしても数ミリ程度の誤差(喧嘩のタネだ)は出てしまう。管理責任者の「超絶技巧」が問われるのです、さぁ責任重大!
(※寅さんは旅先で知り合った「パパこと蒸発サラリーマン兵頭氏」と北海道を巡る旅をした。メロンはそのお礼なのである。きっと夕張メロンだろうな、当時メロンを贈るとは、“最大級の感謝”を意味した)
オイちゃん「喧嘩しないように、公平に切れよぉ~」と、念押し。
オバちゃん「それが、難しいんだよっ!」と、応えていますね。
そして無事分割作業はおわり、茶の間へ運搬した。
「さぁ、頂きましょうか」それぞれがまず、ひと口目を食す。「う~ん、美味しい♪」とか「ウマいっ♪」思わず口に出る幸せな時間の到来です。
さぁ、愉しい茶の間のひと時が始まりィ~と、思いきや。さにあらず…
「…相変わらず、バカか…?」あれ、店先で寅さんの声がしたよ。
オバちゃん「あらいけないっ、寅ちゃんの分、忘れちゃった!」
さくら「勘定に入れなかったの?」
オバちゃん「うっかりしちゃって、どうしよう~」
もう全員がキョドって、オタオタしだす。
さくら 「どうしようって…」
ひろし「隠しましょう(小声)」
オイちゃん「隠すって、どこぇ(ボソッ)」
とらやのみんなは、ピンチを楽しみはじめています。知恵者?のひろしは、お膳の下に自分のメロンをスっと隠した。これがひろしのいま出来る最大の防御なのだ…。
するとそこにやけに上機嫌の寅さんが茶の間へ上がって来た。みんなの顔をニコニコながめ回している。愛しのリリーしゃんもいるしね。茶の間に緊張がはしる、さあこれは困った!とらやファミリー演者の「微妙な表情」にご注目!
寅さん「メロン、美味しいかい?」
さくら「う、うん…」
寅さん「よしっ、じゃお兄ちゃんもひとつもらおうか。じゃ、出してくれよっ。オレの…(メロンを)」
▽ただいま倍賞千恵子さん必死で笑いを堪えている。リハで何度も笑い崩れたことが予想されます。
さくら「あっ、お兄ちゃん。これ一口しか食べてないから」
オバちゃん「あの、あたしのを…」
ひろし「あ、ボクのをどうぞっ」
おいちゃん「これ食べろよ、なっ」
次々と寅さんの目の前に、メロンの皿が突き出されてゆく。んん?これはなんかヘンだぞ。やや間があって、ようやく事情が飲み込めた寅さん。険しい顔になって、ネチりだす。スイッチが入った瞬間です!始まります「トラ節」のスタート!さぁ~テキ屋で鍛えた超理論が展開されるのか。パン、パン! 今回のネタは『メロン』だけに、筋がパキッパキッに迷走する可能性すらあります。爆笑展開を乞うご期待!アイタタタ…
寅さん「ワケを聞こうじゃねえかよ。どうしてみんなのツバキのついた汚ねぇ食いカスを、オレが食わなくちゃならねぇんだいっ」
寅さん「オレのは、どうしたの、オレのぉ~!」
駄々っ子か。するとみんなが口々に、さらに被せて追い討ち※をかけてくる。これが“煽り”の部分で、この時点では寅さんは激怒はしていない。単にスネているだけ。
▽背景化した三崎オバちゃん。“牛泣きの演技”プラン思考中?
(※とらやの人々は、容赦なく“寅さんの恋愛ネタ”で盛り上がるのを、楽しみとしていた。今回はメロンだが、構造的には同じパターンを踏襲している)
さくら「あたしが悪かったの。お兄ちゃんのこと勘定に入れるの、忘れちゃったの」
おばちゃん「違うよ。あのね、あたしが悪かったんだよぉ」
おいちゃん「オレも、気が付かなかったんだよ」
おばちゃん「ごめんよぉ~」
ひろし「ボクも、うっかりしていて…」
もうこうなると誰が原因とか、どうでもよくて。いや、全員が「共同正犯」となってしまった。寅さんは「仲間はずれされた、アウェー感」その憤懣がおさまらない。サッと状況判断したリリーさんは、満男を連れ奥の間へ緊急避難した。それをチラ見て、さらにヒートアップする寅さん。
寅さん「いいんだよっ、いいんだよ。どうせオレはね、この家じゃ勘定には入れてもらえねぇ、人間だからなっ!」
さらにスネスネ男。
さくら「何も、そんなこと言ってないじゃない!」
▽メロン爆食中の満男(中村はやと)君。美味そうだねぇ。これぞ昭和の少年だ!
いやいやいや、遠回しにやんわりと、とらや一家は寅さんを「気付かれなかった存在」とディスてますって。勘定に入れ忘れたと、ハッキリ言ったよ。
寅さん「しかしな。このメロンは誰のとこへ来たもんだと思うんだ?旅先でひとかたならないお世話になりましたと、あのパパがオレのところへよこしたメロンなんだぞっ」
寅さん「本来ならばこのオレが『さ、みんな、そろそろ食べ頃だろう。 美味しくいただこうじゃないか』 『あら、寅ちゃん。すまないわねぇ、あたしたちもご相伴にあずかっていいの?』 『もちろんだともぉ~』『すいませんねえ兄さん、それじゃ頂きます』そうやってみんなが、オレに感謝をして頂くもんなんだろう。それを何だいオレに断りもなしにィ…」
寅さんの正論に皆が沈黙する。もうこうなると、寅さんの独壇場である。これは調子にのりますよね、止まりません!
寅さん「あいつのいない内に、みんなで食っちゃお、食っちゃお、食っちゃお!どうせあいつなんか、メロンの味なんか分りゃしないんだ。ナスのふたつもあてがっときゃいい。そうしよう、そうしよう。みんなでもって食おうとした時に、オレがパタパタッて帰ってきたんで、てめぇら、大あわてに、あわてたろ!なんだ、おめぇ、皿を股下に隠したろ。で、出したろ、そっからっ!」
ひろし「い、ぃ、あれは、あれは…ですねぇ…(汗)」
寅さん「あれは、なんなんだいっ…?」
やはり寅さんは、只者ではない。ひろしの「不審行動までキッチリ捕捉」していたのだ。見ていないようで、みていますからね、侮れませんね。
さくら「お兄ちゃん、いい加減にしてよ。勘定に入れなかったことは、謝るから、ねっ、ごめんなさい」
寅さん「さくら、いいかぁ、オレはたったひとりのお前の兄ちゃんだぞ。その兄ちゃんを勘定に入れなかった、ごめんなさいで済むと思ってんのかっ、おまえそんなに、心の冷たい女かっ!」
とらやの茶の間は、さらにヒートアップ。これでは「落とし所が読めない展開」ですね。いや、最後にはとらやをプイッと飛び出す、それが決まり。
さくら「何よっ!メロン一切れくらいのことで。みっともないわね、もう」
寅さん「何を~ぉ~!!!」
寅さん、さくらに手が出そうになる。一方的に言い負かされ、もう我慢が出来ないおいちゃんは、お金(店の金?)を取り出しながら叫ぶ。
おいちゃん「トラっ!おぅ、おまへ、そんなにメロンが食いたかったらなっ、ひと切れとは言わねぇ、これで買ってきて、アタマからガリ、ガリ、ガリ、ガリ、まりごと、かり、かじれぃ!」
怒りでセリフがカミカミ、さすが名優下條正巳。寅さんに向かって、数枚(三千円?)のお札を投げつけました、オイちゃんチョットかっこイイよ。
寅さん「バカヤロ~!オレの言ってるのは、メロンひと切れのこと言ってるんじゃないんだよっ!この家の人間の心のあり方について、オレは言ってるんだっ!」
オイちゃん「なにを一人前なこと言いやがってぇ、ほまえぇ~!」
寅さんに向かって、また手元のモノ(雑誌)投げつけるオイちゃん。とらやの騒ぎがMAXです。もう収まりませんね。
寅さん「うあぁぁ~、ちきしょう~!」
さくら「お兄ちゃん、やめてぇ~~!」
ひろし「兄さん、もうやめてくださいよぉ…」
寅さん「よお~ぉ~し!!」
ボーリングのピンをつかんでる。
オバちゃん「ぅもう~うぉ~メロンなんかぁ~もらうんじゃなかったぁ~ひぃぃ…」牛泣きの涙となる。
しかしこれどうかしているぜ。
ヘンテコすぎる、とらや一家の人々。
このメロン騒動から想うこと
ここで疑問なのは妹さくらが、ささいな諍いをなぜ「さらに煽った」のか?この「メロン騒動」の時には、寅さんの想い人であるマドンナリリーが、その場にいる状況でした。兄がどんな男かを知ってもらう「プレゼンの場」でもあったのでしょう。さくらは密かに願う「リリーさんに対し、男らしい度量を見せなさい」「これは、チャンスなのよ!」「お兄ちゃんガンバレ!」と。でも寅さんには、そもそも心が解らないし、伝わらない…辛。
▽リリー(浅丘ルリ子)さんの長くて細い指!満男のバルーン顔、背景に紫陽花。この対比がイイね。
リリーには伝わったようです。奥の間でリリーはうつ向き、笑いを噛み殺していたのか?このあとリリーは、寅さんに対し「大人気ないっ!」となじる場面へと続きます。さくらは、リリーに「リリーさんがお兄ちゃんの奥さんになってくれたら、どんなに素敵だろうな」といった。リリーは真剣な顔で「いいわよ。あたしみたいな女でよかったら」と答える。気持ちは通じていた。しかし・・
でも寅さんは告白に真面目には取り合わない・・それは何故?
そして結局は『あいつは頭のいい、気性の強い、しっかりした女なんだよ。俺みてえなバカとくっついて、幸せになれるわけがねえだろ』と、寅さんはさくらに対して気弱に言う。観客は「何故だ~??」と、ヤキモキするところ。
『あいつも、俺と同じ渡り鳥よ。腹すかせてさ、羽根怪我してさ、しばらくこの家に休んだまでのことだ。いずれまたパッと羽ばたいてあの青い空へ。なっ、さくら、そういうことだろう?※1』
あぁ、男はつらいぜ…ん、ん?いやそれは違うぞ。渡り鳥比喩で「定住民と漂泊民の違い」を説明する寅さんだが、それならば「渡り鳥同士で仲良く※2」パタパタすれば良いだけ。ここで何故かズレている。
(※1 寅さんがそう思ってしまう前段がある。『第十一作 寅次郎忘れな草』の終盤に、リリーはカタギの寿司屋に嫁いだ。だが結局、離婚。またも流転の歌手に戻ってしまった。ただ、この離婚原因に寅さんが間接的に関係しているか?と匂わせるのだが、それは劇中では語られてはいない)
(※2 このクダリは『第二十五作 寅次郎ハイビスカスの花』での展開になる。まだまだこの話は続くのです)
▽動画/この状況をみて爆笑できないヤツなんている?当時、劇場で「腹筋崩壊するくらい」笑ったケドなぁ~!何度見ても、笑ってしまうよね!
メロン騒動の逸話。公開時、このシーンでの「浅草と渋谷の映画館で、観客の反応が違った」という。渋谷では「メロンごときで、そんなに騒いで」と大爆笑、浅草だと「なんで寅にメロンをとっておかないんだっ!」といった反応がみられたそう。笑いの質に土地柄の差もあるらしい。(渥美清さん番組談話)
メロン騒動のまとめ
このメロン騒動のシーンだけに限っていえば、正しいのは寅さんですね。メロンの所有権者を爪弾きにしたワケで、寅さんは当然怒っていい。またとらや一家からの仲間外れには、何だか気の毒にも思います。この一家の軋轢の元は、第一作『男はつらいよ』から始まり、延々と同じパターンを繰り返す不思議さがあります。手を替え、品を替えながらもドラマの展開は、同じ結末をたどる。そこに山田監督の家族観が示されています。
例えば、日本人の古くからの特性として『思いやり』 とか『察し』などがあります。この特性は大抵の人に備わっているはずです。このとらやの面々は、過剰なほど「人情」があり、また時には(たいてい些細なこと)衝突を繰り返しています。まるで落語世界の住人みたいに。この映画は『緊張と微妙な感覚的なズレ』そんな空気から“笑いのうねり”が生まれています。この“妙な空気感”こそ『男はつらいよ』の醍醐味と想うのですがいかがでしょうか。
付記/メロン騒動への想い
山田監督が想い出話を語る…『ボクが小学生の頃に、お客さんが来て「子どもだから早く寝なさい」と寝かされる。夜中におしっこがしたいので階段降りてきて、座敷にまだお客さんがにぎやかに笑ってる。そ~っとのぞくと、ケーキ食べてるんですよねぇ(笑)。もちろん「何でっ、ボクがいない時にっ!」て、文句言いたいんだけど、子どもでもそれは言えない。だいいちボクは、もう寝たことになってるんだから。それでおしっこしながら、なんか涙が出てくるのね。それは何かというとなんか自分が疎外されてるというかな、あの子には食べさせなくても子どもはいいんだから、食べちゃえ、食べちゃえという、その疎外された感じが悲しくてね。お菓子もケーキも食べたいんだけど「疎外された感じが悲しくて涙が出てしょうがなかった」という追憶がある。』とのことです。なるほど、とても納得できる原体験ですね。
▽その原点『男はつらいよ』第一作へ続きます。
参考、写真/松竹映画公式サイト、ウキペディア、ウェブ電通報、Google MAP
(6200文字、Please enjoy “Tora-san's” movie.) お題「好きなシリーズもの」#男はつらいよ